だがまたしても壁にぶつかる。患者さんは両肘を曲げた状態で拘縮している。いったいどうやって血圧を測れば良いのかわからなかった。無理に手を伸ばしたら、骨折するかもしれない。困ってしまった。血圧が測れない。でもナースに聞いたらまた怒られると思うと聞きに行けなかった。そう考えているとき、教務の先生が着てくれた。そこで事情を話す。すると先生は、

「こういう場合、無理にではなく、ゆっくり肘を伸ばせるところまで伸ばして、多少曲がっていても測るのよ。ほらこうやったら測れるわよ。」

とお手本を見せてくれた。私も先生の後同じようにやってみると、なんとか血圧を測ることができた。これでやっと一人の受け持ち患者さんの体温、脈拍、血圧の3点セットが測れた。この時点で11時半。一時間もかかってしまった。昼前に午前中の患者さん状態を、担当ナースに報告しなくてはいけない。忙しそうなナースをみつけて、

「患者さんの状態報告をしたいんですけど・・・。」

とおそるおそる言った。ナースは、

「はい、どうぞ。」

と足を止めた。

「お熱は36,5度で、脈拍84,血圧は146の90でした。」

と言った。ナースは、

「それだけ?他には?」

と聞く。他?他って何を言えばいいのかわからない。黙っている私にナースは

「あのさあ、患者さんの状態観察ってバイタルだけじゃないよね。夜の申し送り聞いていたでしょ?夜中にサクションしたって言ってたでしょ?胸の音とかどうなの?顔色は?呼吸状態は?サクションが必要な状態?」