脇を無理矢理広げたら、骨折しないか。私は初めて見る、体が拘縮した意思疎通のできない患者さんに、恐れおののいていた。患者さんに触れるのが怖い。どう接して良いのかわからない。だからどうやって熱を測って良いのかわからなかった。私は担当ナースに相談することにした。

「あのう、患者さんのお熱はどうやって測ったらいいですか?」

すると担当ナースはきょとんとした顔をした後、はあ~とため息をつき、

「あのさ、そう言うことって学校で習ったよね。脇に挟めば測れるよね。」

とさっそく怒られてしまった。熱を測るのに脇に挟めばよいことくらい、私だってわかってる。問題は受け持ち患者さんが体が拘縮しているので、どうやって脇を広げてよいのか聞きたかったのである。だけど怒られたことですっかり萎縮してしまった私は、

「はい、すみませんでした。」

と誤り、再び患者さんのところへ戻る。問題は何も解決していないので、途方にくれる。考えたあげく、脇を広げないように体温計を差し込むことにした。すると、柔らかくて弱々しい皮膚がよじれる。皮膚が裂けたらどうしようと、ドキドキしながら片手で皮膚を軽く引っ張りながら、ゆっくりと脇に体温計を差し込んだ。そしてそのまま5分以上、その場で待ち続ける。36,5度で止まった。なんとか熱は測れた。熱一つ測るのに、汗だくである。次は脈拍測定である。1分間きっちり測る。本当は一般のナースは特に病状変化が無い場合は10秒測定して、6倍する。だがこのときは1分間きっちり測るのが良いことだと思っていたので、長々測っていた。