さて申し送りが終わり、主任さんに連れられて病棟内の配置、物品の場所を教えてもらうと、受け持ち患者さんのところへ挨拶に行く。私の受け持ち患者さんは、寝たきりで体が拘縮した、意思疎通のできない男性患者さんである。年齢は84歳。だが意思疎通はできなくても声をかけなければいけない。それで、

「今日からお世話させていただく中山です。よろしくお願いします。」

と患者さんの耳元まで近寄って挨拶した。

 患者さんへの自己紹介が全員済むと、各自ばらばらになり、その日の自分の行動計画を担当ナースに言わなければいけない。その日自分がどんな看護をし、どんな処置につくか、打ち合わせをするのである。このとき必要のないことや、看護の目的などを質問される。答えられないと、看護させてもらえない。ひどい場合は、

「かえって良いよ。」

と言われてしまう。今までのイメージと打って変わって、ナースは学生には驚異であった。だが初めての実習で、たった二日間である。だから行動計画も「情報収集」「バイタルサイン」「清潔を保つ」程度だ。とりあえず質問されなかった。

 担当ナースとの打ち合わせも終わり、いよいよ患者さんのところへ行く。私はまず、体温を測ることにした。この病棟では一日3回、定期検温がある。検温は午前中行われる。しかしここで早くも壁にぶつかる。私の受け持ち患者さんは、意思疎通ができない。加えて体が拘縮し、腕と脇はがっちり体についていて、動かない。どうやって熱を測ればいいのか。