申し送りは立ちっぱなしである。そして重要なことはメモする。特に自分の受け持ち患者さんの情報は、夜間に何があったか逐一メモしなくてはいけない。しかしである。はっきり言って、半分も言っている意味がわからない。当然のことながら医療用語を夜勤ナースは話す。そう言う言葉は学校で習うわけではなく、病棟実習で知り、自分で文献で調べて覚えるのだ。

「村田さんの食前のターゲス、済みです。」

「佐藤さん、黄色い帯下が見られましたが、クスコーで確認し、生食で洗浄したところ、出血は見られませんでした。」

「田中さん、2時25分に血糖62まで下がり、チョコレートを3つ食べて様子を見たところ、30分後に120まで回復し、そのまま朝まで良眠されました。ドクターには報告済みです。」

などちんぷんかんぷんで、まるで外国語を聞いているようであった。ターゲスって何?たいげって何?クスコーって何?である。単語の意味がわからないから、聞いていても夜間の状態など把握できない。そもそも患者さんの田中さんは、糖尿病だと事前に聞いている。なのに何故チョコレートを食べるんだろうと思った。糖尿病って、甘い物食べちゃいけないんじゃないかなあと、知識の無さ丸出しである。

「実習前に、患者さんの疾患を勉強しておくように。」

と教務の先生に言われていたのに、何もわからないとは。それに足が痛い。私たちは立ちっぱなしに慣れていなくて、途中で具合悪くなる子もメンバーの中にはいた。ナースは足が鍛えられている。病棟中を動き回り、一時間半の申し送りも難なく立っている。慣れていない私たちは、一日でふくらはぎが痛くなってしまった。