かくして私たちは、「たった二日間」の実習の為に、膨大な時間をかけて準備することとなる。もはや寮内では各部屋を訪れ合う者はいない。「はじめに」を書くのに何度も下書きし、400字詰め原稿用紙に清書する。パソコンが普及していず、、ワープロが新発売で売り出され始めた頃である。すべて手書きなうえ、清書で間違えたら、修正液で塗りつぶして良いのは2~3文字程度である。一文丸ごと書き間違えた場合、その用紙すべておじゃんだ。不慣れな私たちは、ついに初めての徹夜を経験する。

 いよいよ実習当日。白地に水色のストライプが入ったワンピースに白いエプロンの白衣。なかなかかわいいデザインだ。頭は・・・たこ帽である。頭を真っ白い三角巾で覆い尽くし、ぎゅうぎゅう縛る。決してみっともいいものでは無い。それでも白衣を着て病院に行くのだ。期待と緊張が入り交じる。朝8時にリーダーの部屋に集まり、5内へ向かった。学生はエレベーターを使ってはいけないので、5階まで階段で昇る。たこ帽を人目にさらすのが、非常に恥ずかしい。

 病棟に着いた。ナースステーションに入るのは、生まれて初めてだ。禁断の場所に入れたような優越感を感じ、わくわくした。病棟に着くと、朝の申し送りまでただぼーっと突っ立っていてはいけない。積極的に病棟のどこに何があるか、物品の場所など確認しておかなければならない。そう、先輩からは聞いてはいたが、何せ初めてである。緊張で動けない。結局申し送りが始まるまで、おずおずと6人固まって、ナースステーションの隅っこに隠れるように立っていた。

 やがて8時半少し前になると、ナース達が続々集まってきた。そこですかさずリーダーが第一声を覚悟して発する。

「基礎実習で来ました一年生の中島です。」

と言うと、次々順番に名前を自分で言う。そして最後に

「二日間よろしくお願いします。」

と全員で言った。私たちが挨拶すると、ナース達は何も言わず、申し送りが始まった。