涙が出る前の、鼻にツン、とくる感覚が私は酷く苦手だった。
感情とは裏腹に、視界が滲んで目の前の相手が見えなくなる。
唇の震え、大声を上げたくなるような衝動、ぎゅうっと心臓を鷲掴みにされるような感覚。
自分が自分じゃなくなる気がした。
怖くて、涙を流すことを何とかして避けたくて。
こうゆうときに雨が降っていれば、こんな醜い葛藤をしている私を隠してくれるのにと思ったけど、空は雲一つない晴天で。
仕方なく私は俯きながら、全力で走った。
笑われてもいい。
この涙さえ、見られなければ。


「好きだよ、」

付き合い始めたのは、高校の卒業式の直後からだった。
私も彼も同じクラスで顔見知りではあったけど、話をするのはそのときが初めてだったような気がする。
だからこそ、最初は何かの罰ゲームなんじゃないかとか、色々なことを考えた。
照れくさそう笑いながら、でもどこか真剣な目付きでそう言うものだから、私は思わず頷いた。
気持ちなんて、なかった。
断るのが可哀相だったし、私自身、男の子にそうゆうことを言われるのは初めてだった。
もしかしたら、浮かれていたのかもしれない。
とにかく、付き合いだしたときには、私の気持ちは彼にはなかったのだ。