『じゃあ…行こうか』
泉さんのいるバーを出ると奥寺さんは言う。
でも私は
「私…帰ります」
奥寺さんに背を向ける。
『どうしたの?すみれちゃん
体調でも悪い?』
奥寺さんが心配そうな顔をする。
きっと今まで私が断ったことが1度もなかったからだ。
「いや…ちょっと、気分が乗らないんで。
それに…たまには奥さんと息子さんのために早く帰ってあげたほうがいいですよ」
私は振り向くと無理矢理笑顔を浮かべた。
『………そうだね』
奥寺さんのその言葉にほっとする私。
でも
『もしかして…さっきの男が原因?』
歩き出した私のもとへ届いたこの言葉。
足を止めてしまう私。
だって…奥寺さんがあんなことを言うなんて思ってもみなかったから。
「なに…言ってるんですか?」
そう首を傾げトボけたフリ。
本当は泉さんが原因…なんだ。
それだけじゃないけど…
でも、泉さんに逢っちゃったから。
なんだか今日はイヤなんだ。