荒川泉はイスに座り、コーヒーを片手に本を読んでいた。
『秘密ですよ、このことは。
今、サボり中なんで、僕』
今、『僕』って言ったよな?
夜と昼とじゃ容姿だけじゃなく、一人称も変わるのか?
ますます訳が分からない。
『僕に用事ですよね?』
荒川泉は何もかもを見透かしたような笑みを浮かべていて。
知れば知るほど分からない男だ。
『俺は…あんたには負けない。』
俺の言葉に荒川泉は表情を変えない。
『ちょっと…この下、見てくれる?』
荒川泉はそばにあった窓を指さす。
俺は窓に近づき、下を覗いた。
そこには花壇があって。
何かの花が咲いている。
『ヒヤシンス、です』
ヒヤシンス…?