「門真君の娘さんってまだ小さいよね?」

ここのオーナーで今回のイベント主催者、そしてオフロードの大会で数々の栄冠を手にしている茨木さんが休憩時間に声をかけてきた。

「はい、今年で4歳です」

「将来が楽しみだね。
軸もぶれないし、センスあると思うよ」

茨木さんは楽しげに遊んでいる睦海を見つめていた。

睦海はというと、隣にいた子供とすっかり打ち解けて走り回っていた。

茨木さんは俺より一回り年上だけど、凄く落ち着いている。

経営手腕も凄いらしくて見習うべき先輩である。

「引退してからどう?
お店は上手くいってる?」

その、優しげな眼差しが今の俺にとってはホッとする。

「はい、何とか回っています」

お客さんも、賢司さんがいなくなってからも離れる事なく来てくれている。
また、そのお客さん達の知り合いでバイクが欲しいとかいい修理屋はないかという人があればウチの店を紹介してくれたり…

本当に有り難い話だ。

そして自分の肩書も、実は大きかった。

シリーズチャンピオンになった事で多少なりとも名前が売れて、遠方からわざわざ来てくれる人もいた。

「上手くスタート出来て良かったね。
これからも大変だろうけど、お互い頑張ろうな」

穏やかに笑う茨木さんに俺も笑顔を向ける。

「パパー、まだ乗っちゃあダメなの?」

睦海が急にこちらに走って来たかと思うと足に抱きついてきた。

「まだだよ。
始まるって合図、まだだろ?」

「えー、つまんない」

そのやり取りを見た茨木さんは吹き出して

「そんなに乗りたい?」

「うん!!!」

「じゃあ、おじさんに乗る所を見せてよ。
…門真君、ちょっと娘さんを借りるよ」

ちょうど再開の合図が掛かり、茨木さんは睦海を連れて行った。