野生動物というのは人間以上に鋭敏だ。

本能で敵の強さを悟る。

そして己より強い者には、まず立ち向かうような事はない。

…何故この森がこれ程までに静まり返っているのか。

それはつまり、この森に圧倒的な力を持つ『なにか』が君臨しているという証拠に他ならないのではないか。

ピリピリした空気が、俺達を否応なく緊張させる。

と…「きゃあ!」

突然、俺の後ろを歩いていたナハトが足をとられて転倒した。

振り向くと。

「!」

何故気づかなかったのだろう、そこには巨大な足跡が残されていた。

三本指の魔物の足跡。

大きさ、深さ共に、幼い子供が水遊びを出来るほどのサイズだ。

この足跡ならば、体高は15メートルは下らないのではないか。

…倒れたナハトを引き起こしながら、これ程の魔物がこの森を徘徊しているという事実に戦慄せずにはいられなくなる。

そして何より…この足跡は比較的新しい。

足跡の持ち主は、この近くに潜んでいるかもしれない…!