狩場がすぐ近くという事もあり、今回は自動二輪を使う事なく徒歩で向かう事になった。

鬱蒼と生い茂る森林地帯。

樹木が日の光を遮り、日中でも薄暗い。

魔物にとっては適した環境といえる。

茂み、木陰、窪地、湿地帯、沼。

魔物が息を殺して潜む場所にも事欠かない。

それでも幸いにして然程強力な魔物が生息しておらず、この森林は新米狩猟者の修行の場としては適した狩場だったのだ。

…鋭い牙を持つ獰猛な魔物とやらが出没するまでは。

ごく最近になってこの森に出没するようになったというその魔物は、新米狩猟者や行商、ファイアルを訪れる旅行者などを見境無しに襲撃し、死傷者も大勢出しているという。

目撃情報と照合すると、恐らくはそれが牙竜ではないかと思われるのだが。

「……」

俺はゆっくりと森の中を歩きながら、そのおかしな空気に違和感を覚える。

「おかしい…」

「え…?」

ナハトが俺の顔を見た。

…俺もかつてはこの森林で狩猟者の修行をした。

だからこの森林の空気というか、雰囲気というものはよく知っている。

その為にすぐに気づくのだ。

「鳥のさえずりも、獣の鳴き声も…しない…」