一方、隼人はチャンスがめぐって来た〜と考えていた。(ここが勝負所だ)隼人は皆が苦手とする、雨、という悪条件をも味方にでも付けるかのように、勝利へと結びつける、さながら逆境に強い、とも受け止められるレーサーであった。
好条件となれば尚の事〜。それ故、日本一の「天才」とまで言われるレーサーなのだ。
雨は一段と強くなって来た。各チームがタイヤ交換の準備を始めた。
「インスパイア」のクルー・リーダー、岡崎務が高田監督に指示を仰いだ。
「監督。始めますか…」
「フー」
と高田は溜め息を吐いた。
「…富田…。勝たせたいがな…」
「インスパイア」に於いて、富田は優勝経験はない。この日は、絶好のチャンスなのだ。
それを高田は期待し、望んでいるのだ。チームの頼みの綱、隼人は大きく先頭から遅れをとっている。
つまり、この日に関しては「インスパイア」は、勝利を逃す〜という現実を危惧せざる得ない。
高田の複雑…いや、明快とも言える胸中がある。
決断しなければいけない。
「隼人、富田、ピットイン。タイヤ交換だ」
クルー達が一斉に準備に入った。