闘兵衛は呼吸一つ乱さずに、紙洲の元に近付いていく。


「俺は、アンタが大嫌いだ。……やり方が、気に喰わねぇんだよ。だが、目的の為に手段を選ばねぇ所は、俺も大差が無いからな……」


呆然とたたずむ紙洲に、闘兵衛は飄々と語る。



「アンタが殺られると、情報が失くなるんでナ?……死ぬなよ」



闘兵衛はそれだけを紙洲に伝え、闇の中に溶け込むように消えていった。

その闇を睨み、紙洲は歯を食いしばる。

背筋が凍り付くような、恐怖を堪え大きく深呼吸をした。


圧倒的な暴力は、侍や人とは違う。

刀という人斬り包丁を持つ侍は、ソレだけで特異な人種だといえた。

人を殺せる人種でありながら、暴力を鞘に納めている為に、街という人間の集落にも溶け込める。


だが、闘兵衛の暴力は、違った。

力の順位で頂上に立つ侍を捩伏せ、その力は獣のような野性を臭わせる。


人の住む街に相応しくない闘兵衛という一匹の獣に、紙洲は戦慄を覚えるのであった。