闘兵衛は、動けない。
視界には海に浮かぶ黒船と、小船に乗る鬼人達。
死んだように、動かない桃華。
そして、相対するのは、紅拳。
(……化け物の集まり、だな……)
闘兵衛は全く隙を表さない紅拳を見て、思案を巡らす。
黒鬼といい、紅拳といい猛者が多い。
先程の攻防からしても、鬼人の腕前も並々ならぬモノであろう。
しかし今現在は、闘う、という行動以外がとれない以上、倒すしかない。
しかし、逆に、倒される可能性の方が高いと思わせる程の雰囲気を、紅拳は持っている。
黒鬼が剛の者とすれば、紅拳は柔の者であろう。
先程の死闘とは別モノ。
新たな激戦になる事は、確実である。
「……四面楚歌、か」
闘兵衛は自分の置かれた状況を皮肉るようにし、中国の諺になぞらえ呟いていた。