かなりの距離を歩いた所で、闘兵衛は自分に付き纏う気配に気付く。


「……」


闘兵衛は暗闇の中、身構えながら辺りを探る。



「闘兵衛、だな?」



暗闇から女の声で、名を確かめる問い掛けがあった。


「……何者だ?」


闘兵衛は名を呼ばれた事には驚かず、謎の女に対する殺意を高めていく。


「港へ行け、鬼鴉が動くゾ……」



唐突に掛けられた言葉に対して、闘兵衛の表情が歪む。


「なんだと?」


闘兵衛は女に声を掛けたが、すでに気配は無くなっている。



鬼鴉。



その呪縛は闘兵衛の傷痕を、深くえぐり込む。


あの惨劇を彷彿させる、忌ま忌ましい言葉。


闘兵衛は背筋に走る悪寒に、ただただ表情を凍りつかせるのだった。