「イ、イギリス帰りでまだ日本語に慣れてないだけなんだからね!!」

 ツンツンしながら藍奈は言った。聞くところによると、藍奈は高校二年、つまり今年神鳴学園に転校してくるまでイギリスのウェールズにある魔法学院とやらで勉強していたらしく、実際成績は優秀で、飛び級でもトップで卒業したとか言う。本当かどうかは麟紅は知らない。

「はいはい、数学は日本語読めさえすれば出来るもんだから。茜も人間の学校来たばっかりで慣れてないとか言うなよ」

 先に言われ、茜はうっと言葉に詰まった。
 この日一日の授業もすべて終わり、麟紅と藍奈、茜の三人はゆっくりと<黄昏の翼>事務所に向かっていた。常磐は居残り補習。藍奈と茜はなんとかここ最近は補習に呼ばれなくなってきた。

「す、数学は……数学は……」

 返す言葉もなく、藍奈はプルプルと震えだす。結果的に麟紅に鞄を投げつけ、殴りかかり、茜がそれを止めにかかるいつものパターンになってしまう。と思ったら今日は違った。

「麟紅くん! 数学なんて勉強しても役に立たないんだよ! 足し算と引き算が出来ればいいんだよ!!」

「ちょっと待て! それ間違ってる! それ間違ってるから早く藍奈を止めろ!!」

 ゆっくりとした歩調は、逃げる麟紅のせいで速度を増し、いつしか駆け足になっていた。