「昴、お前声丸聞こえ。」

ふっと笑って、たけ兄は片していた本を棚に押し込む。


だけど大して気にする素振りも見せないたけ兄に、俺は構わずかじりついた。


「いつ帰って来たんだよ!」

「いつって、さっき。」

「それなら連絡しろってー!そうしたら俺、もっと早く帰って来たのに!」


そう言った俺に、たけ兄は
「ごめん、ごめん。」と笑いながら言う。





…相澤 健(アイザワ タケル)

8歳離れた俺の兄貴。



通称、たけ兄は
兄弟ながらも、俺の憧れだった。


頭も良くて、スポーツも出来て
俺とは違い、背も高くて。

俺がサッカーを好きになったのだって、たけ兄に影響されたからだった。



だけど高校卒業と共に、有名大学へ進学したたけ兄は
俺が10歳の頃、単身東京へと上京してしまったのだ。


たまに帰ってくるものの
こうやって会うのは、どれくらい振りだろうか。

この前聞いた話では、念願だった教師になったんだ、と言ってた。



多分、忙しいのだろう。

仕方ない事だけど
根っからの兄ちゃん子だった俺には、その当時だいぶ辛かった記憶がある。



今はさすがに兄離れしたけれど
やっぱり、会うと嬉しい気持ちは隠せない。



兄貴は、俺の自慢だから。