「寧々っ!」

呼び止める俺の声を振り切った寧々の背中は徐々に小さくなってゆく。

なのに
俺は足から根が生えたみたいにその場から動けなくて。


遠ざかっていく寧々の涙が
俺の心をどうしようもなく痛めつけた。




泣かせたかったんじゃない。

傷つけたかったんじゃない。


ただ、俺の気持ちを
ちゃんと寧々にも、わかってもらいたかっただけだったのに。



それだけだったのに―――。




ようやく動けたのは
もう日が暮れた後の事だった。



「昴、お前こんな所で何してんの?」

いや、正確に言えば
その呼び掛けが俺を引き戻してくれた、って言った方が正しい。



「…悠、」

「つーか、奈雲は?」

一緒じゃねーの?と言われ、俺はそこで黙りこんだ。



悠(ユウ)は俺の幼なじみで
実は言うと、寧々との仲を取り持ってくれたクラスメートで。


両耳にいくつもあけられたピアスに
ツンツンに立てられた髪の毛は、薄暗い明りの中でも際立って見えた。

所謂、ちょっとした不良ってヤツ。


だけど外見によらず
めちゃくちゃいい奴で、俺と寧々3人で遊ぶくらい仲がいいのだ。