『それで納得出来る
人生だと言えますか?』

『もちろんです。私が
犯した罪はあまりにも
大きすぎたし、会社の
社長を名乗れるような
立派な男ではない。
今この命が無くなると
思った瞬間に、後悔は
ただ一つしかないです。それは来世で叶えます。とにかく先生!私が
誰だかわからなくなる
ような真似だけは絶対
したくないんです!』

急に取り乱したかの
ように北川さんは言った

千穂に会う為だろうか

その為に抗がん剤は
使いたくないという
意思表示なのだろうか

今ここで深くを聞く
わけにもいかないだろう

ステージⅣの患者へは
患者の意思を一番に
尊重するべきだと、俺は考えている医師だった

今までもそうしてきた

でもほとんどの人は
延命治療を行うのだった

少しでも生きたいと
思う意思があるのだから

でも北川さんは違った

自分の病気に対する
受け入れ方が違っていた

本人の意思を尊重して
延命治療は行わないと
結論を出した俺は
何だか不思議な感情が
こみ上げてきていた