『あの…』

何も言わずに立っているだけの俺に向かって
隣に居た男が口を開いた

『すみません。どうぞ
座って下さい』

ようやく我に返って
椅子に向かって手を
差し出していた

2人の男は椅子に座り
俺も椅子に座った

緊張ではちきれそうな
心臓と、汗で湿っている手は自分のものじゃ
ないように感じた

『結論を話して下さい』

その男からの第一声は
それだけだった

俺はカルテの名前を
何度も見つめていた

北川馨

女のような名前だった

きっと千穂が何度も
呼んだ名前なんだろう

今は千穂の事を
考えている場合じゃない

『北川さん。私は
回りくどい言い方は
あまり好きじゃない。
ありのままをお話
したいと思っています。
それでもまずは、少し
知りたい事があります』

『えぇ。何でしょう?』

『隣にいらっしゃる方はどなたですか?』

『秘書の湯川です。
この男は私の右腕です。
全てを知ったとしても
それを受け入れる覚悟と勇気を持った男です』

『わかりました。他に
ご家族はいらっしゃってないのですか?』

『両親と妻と子供が
おりますが、まずは
自分と湯川がここで
受け入れる事が先決で
それから話しても
遅くはないですから』

『わかりました。では
お話ししていきます』

俺は資料を広げて
話す覚悟を決めていた