利家殿、秀頼の出自だが… 実は…と太閤が話出した時、三成が横槍を入れた。殿下、血迷ってはなりませぬ 殿下と三成。それを見て憤慨した利家が、三成控えよ 控えよと一喝した。その声は城内に響き渡り、警護の侍たちが慌ただしく集まってきた。何事もない 下がれ と利家が騒ぎを鎮めた。話の邪魔をした三成に立腹した太閤は三成を睨んでいた。三成は恐懼し、頭を下げたまま動かず、扇子を握りしめ、黙ってやり過ごすほかなかった。再び部屋は静まりかえり、太閤が口を開く。利家殿、秀頼の父はわしではない 大野治長じゃと。利家は一瞬頭が混乱し、自分の耳を疑った。殿下、今何と申されましたかと聞き返す利家。太閤はもう一度、利家に同じことを話した。これは真実なのじゃと太閤。以前、太閤が高齢であったために秀頼の出自に疑念を抱く風聞を利家は耳にしたことがあった。しかし、戯れ事だと聞き捨てていた。それが太閤の口から秀頼の出自を聞かされ、利家は驚き、言葉を失っていた。太閤は話を続ける。利家殿とは古くからの付き合い 一番の友じゃ これまでの友情忘れたことはありませぬ ただこの秀吉、利家殿と三成が疎遠では心配で冥途にはいけませぬ それ故このような大事を打ち明けたのじゃ 秘め事を利家殿と三成が共有すれば、関係は深まり親密となる 何卒 利家殿 三成を頼む 秘め事で結束して三成を守ってやってくれと太閤。利家はそれを聞き、若き日を思い出し、太閤とのこれまでの付き合いが無駄ではなかったと改めて太閤の信用が身に染みていた。若き日の太閤は利家に何でも腹を割って話をした。その時に戻ったような心地にある利家は打ち明けてくれた太閤を裏切ることはできないと心に誓いを立てた。利家、命にかけて殿下の仰せに従いまする 三成を引き受けますると利家。利家の言葉に太閤は喜び、三成の将来を憂慮していた太閤の心は晴々としていた。三成も太閤の自分に対する強い思いやりに感激し、太閤の意思を尊重するために働く決心に燃えていた。三成よ 今後は利家殿をわしと思い頼るがよいぞと太閤。三成は力強く頷いた。これでよい これでよいと太閤は上機嫌であった。