―――魔界。



魔界の統率者が住むその城は、沢山の薔薇の壁で覆われていた。


しかし、その統率者…つまり魔王は、旅行中である。


代わりに、その息子がその城を任されていた。



「―――っ…」



その城門を、一人の少年がくぐり抜けた。


黒に近い色の髪に、真紅の瞳。


貴族だということがわかる。



しかし何があったのか、服は所々裂け、痛々しい傷跡が見えた。


端正な顔も、細かな擦り傷だらけだった。



今にも倒れそうなその体を、一本の太い枝で支えながら、少年は正面玄関を目指した。



「あんのっ…クソ兄貴」



少年は、そう小さく吐き捨て、そびえ立つ漆黒の城を見上げた―――…