「うん。結局トウマのお父さんは私のお母さんを選んだの。
…咲希ちゃんのお母さんは捨てられたんだよね。」

「…ちょっと…ふざけたこと言わないでよ!」

「んもう!咲希ちゃんもお父さんについて来れば良かったのにー。」

「母さんを裏切った奴なんかに、付いてく訳無いでしょ…。」

「むーっ。咲希ちゃんは堅いなあ。ね、仲良くしようよ。私達、義理の姉妹なんだしさっ!」

咲希はぎりぎりと唇を噛んで、今この状況に耐えていた。

環さんは、そんな咲希をからかうように話し続ける。

「ねっ、トウマ。あの話、しようよ。」

「…環、いい加減に…。」

「咲希ちゃんっ!咲希ちゃんは河北が好きなのかな。」

「…名桜なんかよりずっといいわ。」

「そうだよねえ。お父さんの学校だもんねえ。でもさあ…。…咲希ちゃん、来年から私達の後輩になるかも、って言ったら…傷つく?」

「…どういう意味よ…。」

「環、行こう。咲希にそんなこと言いに来たんじゃないから。」

「ああ、トウマは会いたかっただけなんだよねっ。じゃあ、今日はこのへんにしとこっか!またね、咲希ちゃん。」

環さんは、トウマさんの手を引いて校舎に戻って行った。

ただその場に立ち尽くす咲希。
私はなんて言葉をかけたらいいのか、わからなかった。


私と咲希は無言で教室に戻った。

幸い、教室には誰もいなくて、二人で話すには最適だった。

咲希はしばらく暗い表情をしていたが、重苦しそうに口を開いた。

「ハナは…どうしてシン兄と出会ったの?」

「えっと…よく屋上に行ってて…。そしたらね、たまにあそこにトウマさんが立ってた。それから…仲良くなった…っていうか。」

「そっか。じゃあシン兄はハナに何も言わなかったんだね。」

「何を…?あ、咲希のこと?私がこの間咲希のことをつい口走ったから、トウマさんは咲希が河北にいること知ったみたいだよ。」

「うん…そうだよね。シン兄が…私が河北にいることなんて知るはず無いか。」

「ねえ…。私にはよくわかんなかったよ。ちゃんと…説明して欲しい。」

咲希は困ったように目を伏せた。
言いたくないのかもしれない。

それでも。

それでも私は、咲希の口から真実を教えて欲しかった。

咲希は意を決したらしく、うんと頷き、私に小さく笑いかけた。

「こんなにハナを巻き込んで、何も教えないって言うのは無いよね。…話すよ。」

咲希は、言葉を選ぶようにゆっくりと話し始めた。


――直井冬真と、その妹の咲希。

一つしか年の違わない二人は、端から見ても仲の良い兄妹だった。

二人のお父さんは、学校経営者。直井学園系列の理事長。

裕福な家庭で育った二人は、幼い頃からこう約束していた。

「大きくなったら、二人でお父さんの学校に入ろう。」

だけど…父は、環さんの母と不倫。

世間体なんか全然気にしない。父は咲希の母を捨てた。

多額の慰謝料が支払われ、父は二人に言った。