「雨宮さん、今暇?少しだけ話を聞いて欲しいんだけど…」

クラスの友達から相談を受ける鏡子。

そんな雨宮相談室を遠くから見ていた流一が呟いた。

「わからんな。なんで女は飽きもせずに恋愛の話だけを延々と続けられるんだ。」

ここ数日は恋愛相談が後を絶たないようだ。

鏡子が言うには、恋愛にはブームがあって、どこかでその手の話があがると、今まで隠れて行われてきた恋愛話が連鎖的に表立つらしい。

「だからね、佐伯さんの場合は…」

鏡子も鏡子で、流一だったら一切興味がないような話をすべて真剣に聞いている。

真剣に聞いたうえで、細かいアドバイスまでしているらしい。

「あれは、演技指導だな。」

呆れた口調で流一がそう結論づけた。

「演技?」

「そうだ、恋愛がうまくいくかなんて、結局は相手をどう説得するかに近い事柄だからな。あいつの領域だろう。」

天才の説明は凡人には判りにくい。

「つまりだな、あいつは恋愛を一つのドラマとして考えてるんだ。そのドラマがハッピーエンドになるまで頭の中でシミュレーションして、一番良かった結果を現実に引き起こそうとしてるんだよ。」

「どうやって?」

流一は遠くから鏡子を指差す。

「あーやって。」

そんな事を話している間に、恋愛相談は終わったようだ。

「すっごく参考になりました。ありがとうございます、雨宮さん。」

相談を終えたクラスメイトは、まるで自分にとっての教祖がそこにいるかのような振る舞いだった。

「俺らと喋るときの鏡子ってあんな感じじゃないだろ?台詞一つひとつも演技してるんだろうよ。」

確かに、翔吾の記憶にいる鏡子はあんな感じではない。

喋り方だけではなく、雰囲気も。

まるで、自分の知らない誰かがクラスメイトの相談を受けているような雰囲気なのだ。

「なーにこそこそ話してるのかな?私も混ぜてほしいなー。」

わざとらしい声がふいに響く。

目の前には、翔吾の記憶と一致する雨宮鏡子が立っていた。