「けれど、できたんです。日記の中では。あの日記には嘘の生活が書いてありました。健康になって、一緒に遊ぶっていう生活が。たったそれだけの…俺と、流一の願いが。」

いつのまにか、翔吾の瞳は濡れていた。

「俺には一緒に遊べる友達は流一くらいしか居なかったはずなのに。でも、俺の記憶の中にはもう一人居たんです。それが…。」

雨宮鏡子。

空想上の少女。

「全部思い出したんです。友達の居なかった俺たちは、雨宮鏡子っていう女の子を創りました。二人だけだと寂しいけど、三人なら寂しくなかった。日記の中の俺たちは、ずっと楽しかったんです。」

翔吾と流一は空想上の少女だと知りながら、雨宮鏡子を創り続けた。

たった一冊の交換日記の中に。

一人の女の子を創ったのだ。

何年もかけて。

「けれど、俺の病気は残酷だったんです。必死に病気と戦っていたのに…負けそうになったんです。ある日、高熱に襲われて死にそうになりました。その時、俺は雨宮鏡子が居てくれたらがんばれるって、そう思ったんです。」

翔吾の告白を、キョウコは静かに聴いていた。

「俺の中で鏡子は空想じゃなくなってました。その時に、流一に言ったんです。鏡子に会いたいって。」

翔吾の涙は止まらない。