「私の事はキョウコと呼んで下さい。」

「判りました。」

翔吾は何かに耐えるように、拳を強く握っていた。

彼女はそれに気づいている。

「覚悟、できたよね?」

翔吾がうなずく。

「あなたが思い出した事、話してみて。事の真相を。」

事の真相。それがこの密会の目的だった。

「わかりました。」

翔吾がキョウコを見つめる。

「俺は昔、原因不明の病気にかかって入院してました。とても辛い病気でした。けれど、流一が支えてくれたおかげで、なんとか生きていられました。この病気の症状は、ある時突然に意識が無くなったり、記憶が混乱したりするといったものでした。」

コーヒーが届き、少しだけ話を休める。

「もう一人、いたんです。」

「もう一人?」

「ええ、雨宮鏡子っていう子でした。俺のことをずっと支えてくれた子です。俺ら3人は毎日一緒に遊びました。それはもう元気に。車椅子で障害物競走するくらいね。」

翔吾が彼女に微笑む。

「この二人が居たから、俺は生きてます。いや、生きてこれました。」

「うん。そうだね。」

「おかしいんです。なんで重病人のはずの俺が元気に遊んでるんでしょう?障害物競走なんかできっこないのに。」

翔吾は日記から真実の記憶を拾ってしまった。

それは小さな記憶の欠片。

記憶のパズルのピースだった。

たった一つのピースが、絶対に噛み合わないことに気づいてしまう。