部屋には俺と看守で計四人いるのだが、誰の息も聞こえないくらの静寂だった。いや、今の俺の耳には何も聞こえてこないのだ。静寂は俺自身なのだ。

 料理に目をやるとなにか少しづつ速くなる音が聞こえてきた。音源はどこに?看守の誰かか。違うな。料理からか。そんなことはない…。いったい?詮索しているうちに音源がどこからか判明した。

 心臓の鼓動だった。それも、自身のものだ。

 俺はまだ生きてる。確かに生きているのだ。

 看守たちからは沈黙する俺が、ただ料理と睨みあっているようにしか見えないだろう。俺の目の前のロブスターは数時間前まで生きていたとは思えない雰囲気を醸し出していた。もう感情や思考、魂というものさえこの生物には宿ってはいないのだろう。ただの肉に等しいもの…。

 なんと表現すればいいのだろう。この時、俺はこの異種生物に対して死を共感したと思う。

 この状況下、とてもではないが最後の晩餐なんという気分にはなれるはずもなかった。気持ちなど…今の自分の気持ちなど、このロブスターにしかわからないだろう。病んでいるのか?俺は…。

 そして、時が流れたのだろうか。

 気が付けば、牢に戻っていた。記憶は多少あるが無気力なおれはただじっと最後の時を待つしかなかった。なぜ俺なのだ…と呟きながら。