「きりがない!」

一体一体は、弱いが…数が半端ではなかった。

それに、倒しても増えているように感じた。

鹿のフン包囲網の外にいる鹿達が、糞をすると…出来たてほやほやの鹿のフンが誕生していた。

その生まれる早さは、半端ではない。

戦いは、数時間にも渡り…もう夕方に近づいていた。

「どこかに…親玉がいるはずだ!」

途中、自動販売機で、カロリーメイトを買い、水分を補助しながら、九鬼は親玉を探していた。




「ククク…」

鹿のフン達が、暴れ回る中…鹿せんべいを売る売店のおばあちゃんは、含み笑いを漏らしていた。

「わかるまいて…あたしが、鹿のフンを操っているとはな」

鹿せんべいを売るだけでなく、鹿せんべいとばし大会にも出場経験のある富子65才は、

ベテランの俳優だった。

しかし、主役をはったことはない。

今回は、孫の智也君七才の希望をきき、彼が好きな乙女戦隊月影のオーディションを受けていたのだ。

月影側ではなく、敵方になってしまったが、スクリーンには映ることができる。

これで、孫も喜ぶだろう。

「じゃあ、行ってくるよ。智也」

奈良の地へ向かう祖母に、智也は言った。

「おばあちゃん…。ぼく、グリーンが好きだから、蒔絵ちゃんだけは、傷つけないでね」

孫の言葉に、富子は頷きながら、頭を撫で、

「大丈夫じゃよ!蒔絵ちゃんには、手をださんからのう」



そう誓った富子の前に、

「鹿せんべいをくれ」

小銭に差し出す蒔絵がいた。


「な!」

富子が絶句した。毎週、孫と見ているから、蒔絵の顔を見間違うはずがない。


それに、周りを魔神鹿のフンに囲まれて、近くに鹿などいないのに、鹿せんべいを買いに来るなんて、常識ではあり得なかった。

(ま、まさか…正体がばれた)

しかし、まだわからない。

「はい…ありがとうね」

富子は、小銭を受けとると、鹿せんべいを渡した。