何も言い返せない九鬼に代わって、早奈英が叫んだ。

「それは、違うわ!九鬼さんは!」

「いいのよ。早奈英さん」

九鬼は、早奈英の言葉を遮った。

「牧野さんでしたっけ?」

蘭火は、九鬼の横を通り過ぎると、車椅子の前に立った。

「こんな体ですけど…あなたも、乙女ケースに選ばれた戦士…。泣き言は許しません。あたしが、月影に加わったからには、今のようなだらけた風潮は、なくしますので」

ちらりと、九鬼を見ると、蘭花は奈良向けて歩き出した。


「どうしたんだ?」

いつものまにか、たこ焼きを買った蒔絵が、隣にいた。

「え?」

いつになく、真剣な蒔絵の口調に、九鬼は驚いた。

「あいつより、あたしはお前が好きだ。うざいを通り越してるお前がな」

蒔絵は、たこ焼きをパクつきながら、奈良公園に向けて歩き出した。

その後ろを、夢見心地の夏希が、ふらふらと続いていく。

九鬼は、車椅子を押して、歩き出そうとした。

すると、後ろから、呼ぶ声が聞こえた。

九鬼が振り返ると、熊五郎が走り寄ってきた。

「九鬼!お前、平城山を知らないか?昨日から、帰ってないんだ。一応、半田先生には、連絡はあったらしいんだが…」

「そうですか…。あたしは、知りませんが?」

「そうか…。一応、引率者が減ったから、何かあったら、頼むわ」

「はい」

九鬼は頷いた。

そして、頭を下げた後、蒔絵達の後を追った。