「おのれえ〜。マイナーな銘柄しかおいてないと思い、馬鹿にしやがって!」

魔神自動販売機は、1人では動けない。

「スタッフ〜スタッフ〜」

と呼んでも、来ない。

搬入スタッフがいないと、移動はできない。

自分の分のジュースも買った夏希が、魔神自動販売機の前をスキップしながら、通ると、

「すまない!中央にある緊急ボタンを押してくれ!」

魔神自動販売機は、夏希に懇願した。

しかし、夏希は完全無視だ。

「き、貴様!困ってる人がいたら、助けるのが、ヒーローではないのか!」



夏希はもう、魔神自動販売機の相手をする気はなかった。

旅館に入ろうとした夏希は、入口の敷居が少しだけでていることに気付かなかった。

「きゃ!」

つまづいた夏希の手から、コーラが飛び出し…地面に転がった。

「もお!」

慌てて拾おうと、しゃがんだ夏希の目に、誰かの足元が見えた。

その誰かも屈むと、手を伸ばし、こっちに転がってきたコーラを拾い上げた。

「はい」

夏希に向かって差し出されたコーラを受けとるよりも、

夏希は自分に向けられた優しい眼差しに、体が動けなくなった。

「よく物を落とすね」



「中島さん!」

微笑む中島が、目の前にいた。

夏希の鼓動が高まった。


夏希は、中島から思わず目を逸らした。

(ま、まさか!こんなところで、中島さんに会うなんて…)

夏希の顔が赤くなる。

(あたし達は…運命の赤い…)

夏希はちらりと、中島の手を見た。

(赤い…糸で結ばれているんじゃあ〜ないの!)

中島の手にあるコーラは、確かに赤い。



「あ、あのお…」

夏希は立ち上がり、コーラを受けとると、中島の顔を見つめた。

「…?」

見つめ合う2人。

「あのお…ですね…」

夏希が言葉を続けようとした時、

後ろから声がした。

「夏希!」

帰りが遅い夏希を心配して、九鬼が門から飛び出して来た。