「あああ!結局、結城来なかったね」

旅館の月の間で一泊することになった九鬼、夏希…蒔絵と早奈英。

蘭花だけは、別の部屋に振り分けられていた。

九鬼は、早奈英以外の乙女ケースを月が見える窓際に置いた。

早奈英の正体を誰にも、教える気はなかった。

それは、早奈英が戦う為に乙女ガーディアンになった訳ではないからだ。

それに、乙女ガーディアンのケースは、ムーンエナジーを補充する必要はなかった。

月の女神を護る為に、存在するガーディアンには、特別に衛星が備えられていた。

月の見えなくても、その衛星が絶えず、月の光を集め、ガーディアンに送り続けているのだ。

九鬼は、黒い乙女ケースを見つめ…そっと表面を撫でた。

充電はできるようだが…。


「駄目だ!また携帯止まってる」

里奈に電話をかけていた夏希は、例のアナウンスを聞いて、ため息をつきながら、電話を切った。

「ちゃんと払えって、いうの!」

夏希は、テーブルの上に置かれている急須に、ポットからお湯を注ぎ、お茶を飲んだ。

「…」

蒔絵は畳に寝転んで、携帯をいじっていた。

早奈英は、座布団の上に座っていた。その目は、九鬼の背中を映していた。


「まだ…時間があるわね」

食堂に集合する時間まで、まだ30分くらいある。

夏希はお茶を飲み干すと、

「やっぱり、お茶より…なんか、炭酸系が飲みたい!」

夏希は、立ち上がった。

「買ってくる!」

部屋を出ていこうとする夏希に、九鬼は青の乙女ケースを差し出した。

「夏希!これを」

「いいよ」

夏希は断った。

「すぐ、そこだし」

自動販売機は、旅館を出て、曲がり角のそばにあった。

「で、でも、危ないわ」

「大丈夫!」

九鬼の心配を遮って、夏希は部屋を飛び出した。

早奈英は目で、夏希が出ていくのを見送った。

「あたしは、コーラ」

ぼそっと言った蒔絵に、

「あいよ!お金は後でね」

夏希はこたえながら、部屋のドアを閉めた。