変身を解いて、早奈英に戻ったシルバーを背負うと、九鬼は十夜とともに、水路閣の上を走り抜け、

水道局の施設を抜けると、トコッロの線路跡地を飛び越え、国道へと出た。

そして、信号を渡ると、河原町へ向かう道を曲がった。


「十夜さん…ありがとう」

後ろにいる十夜に、振り向こうとした九鬼の視線の端に、太陽の光が照り返すのが映った。

九鬼は反射的に、乙女ケースを突きだした。

「勘違いするな」

十夜が横凪に振るった日本刀の研ぎ澄まされた刃が、九鬼の顔…数センチ向こうで、妖しく輝いていた。


「俺は…ただ、貴様が他のやつにやられるのが、許せないだけだ」

「十夜さん」

日本刀と乙女ケースがせめぎ合う。

「お前を倒すのは、この俺だ」

十夜は日本刀を引くと、一回転させた。

すると、日本刀は消えた。

「フン」

鼻を鳴らすと、十夜は九鬼の瞳を見つめ、

「俺の中にいるあいつが、疼いただけだ。今度は助けんし、斬る!例え、変身できなくてもな」

強い意思を示した。


「十夜さん…」

九鬼も十夜を見つめた後、頷いた。

「フッ」

十夜は視線を九鬼から外し、背中にいる早奈英に向けた。

まだ顔色が悪い早奈英を、目を細めてみつめ、

「人間とは、不憫だな…。我々ならば、悪くなったパーツを取り換えればいいだけだが…」


「人は、あなた達と違うわ!」

九鬼は、十夜を睨んだ。

十夜は肩をすくめ、

「まあ…どうでもいい。こいつが、シルバーでもな」

苦笑しながら、九鬼に背を向けると、歩きだした。

「俺は、お前と…結城里奈さえいれば…それでいい」



九鬼は、去っていく十夜の背中を見送った。

その背中に、戦士の哀愁を感じながら…。



「九鬼さん…あ、あたし」

やっと落ち着いて、顔色がよくなった早奈英に、九鬼は微笑んだ。

「いいのよ…心配しないで」

九鬼は、手に持つ…黒い乙女ケースに目を落とした。