「十夜!?」

油断していた九鬼は、唇を噛み締めた。

「まあよい…。不意討ちは、好まん」

「チッ」

九鬼は小さく舌打ちした。

「フッ…。それよりも、気づかんか?闇の波動が漂っている」


十夜の言葉にはっとして、九鬼は気を探った。

「馬鹿な!?」

そして、あり得ない波動を感じた。

「やっと、気付いたか」

十夜は、九鬼から少し離れ、

「闇の波動の中に」

「月の波動がある!」

「それも、とてつもない力を感じる」



「生徒会長!」

そばにいた早奈英が、叫んだ。

「チッ!」

九鬼は銀閣寺の坂の手前で、川沿いを走った。

所謂、哲学の道だ。


「夏希!牧野さんを頼む!」

ハンカチを握りしめ、ぼおっとしていた夏希は、事情がわからない。

「生徒会長!あたしも」

早奈英の言葉を、

「今は、駄目!」

九鬼は遮った。


走る九鬼の背中を見つめながら、十夜は鼻を鳴らした。

「変身できるかな?だが…それでも行く。それでこそ、我が好敵手」





走りながら、九鬼は乙女ケースを突きだした。

「お願い!みんなを守りたいの!」

九鬼の願いが通じたのか…乙女ブラックへと変身できた。


「みんなを傷つけさせない!」

九鬼は変身しながら、蹴りを繰り出す。

哲学の道で、生徒達を待ち構えていた敵に。

「ルナティックキック!0式!」


川沿いの道!

何もない空間に、乙女ブラックの蹴りが炸裂する。

しかし!


ふっ飛んだのは、ブラックの方だった。


ブラックは、哲学の道の横にある川へと落ちた。

大して水かさはないが、深さはある川底に激突したブラック。


水飛沫が上がり、シャワーのように降り注ぐ哲学の道の石畳に、きらきらと輝く人型が、水を弾いた。


「来たか」

十夜は離れた場所から、その様子を眺めていた。

「きゃあ!」

十夜のそばで、白々しく悲鳴を上げてみたが…蘭花はすぐに止めた。