「やってみるね!」

夏希ははしゃぎながら、石の前に立つと、目を瞑った。そして、ゆっくりと歩き出す。

「頑張って!」

早奈英の応援を受けて、夏希はバランスを取りながら、歩いていく。




「やった!」

夏希の爪先に、石が当たった。

目を開けて、向こう側の石にたどり着いた夏希が、振り返ると、

1人の男が立っていた。

「落としましたよ」

夏希に差し出されるハンカチ。それは、明らかに夏希のものだった。

どうやら、目をつぶって歩いている間に、ハンカチをポケットから落としたようだ。

真面目そうで、高校生だと思われる男は、夏希に微笑みかけていた。

「す、すいません!」

夏希は慌てて、男の手から、ハンカチを奪い取った。

どうしてか、顔が真っ赤になっているのが、自分でもわかった。


「ご、ごめんなさい!」

夏希は恥ずかしさから、頭を下げた。

「そ、そんなに謝らなくても」

困ったような男の前から、夏希は逃げるように離れ、早奈英に駆け寄ると、縁結びの境内から出ていった。

その夏希の後ろ姿を、男はじっと見送っていた。






「九鬼!よろしくね」

まだ緊張している夏希は、早奈英を九鬼の前まで連れて来ると、どこかへ消えていった。


その頃、蘭花は清水寺の出入り口にある三本の滝の前で、如雨露を突き出していた。

民間伝承であるが、三本はそれぞれ…頭が良くなる。病気が治る。綺麗になると、効果が違っていた。

蘭花は迷わず、真ん中の滝の水を飲んだ。


それは、綺麗になるだ 。


一方、蒔絵は…。


「まじうま!」

まだ試食を続けていた。

店員の冷めた視線を、気にもせずに。