「春風堂」はすぐそこにあった。
平屋立てで、入り口には群青色ののれんが掛かっている。
ミヤがガラガラと戸を開けると、中から中年の女性のいらっしゃい、という元気な声がした。
中に入ると、三四人の客がいる。
「あら、カンちゃん!
カメラさげて、今日もお疲れ様!」
白いエプロンに白い三角巾をつけて、ぽてっとした彼女は親しそうに声をかけた。
「うん。オバちゃん、今日はツレがいるんだ」
ミヤはそう言って私の肩に腕をまわして紹介した。
「あら、かわいい子。
恋人?」
茶目っ気たっぷりのオバちゃんに、ミヤは笑った。
「そんなんじゃないって。
ハル、座ろう」
私とミヤはカウンターに腰かけ、ミヤは天丼定食、私はオススメだという天ぷら定食を注文した。