クラウンでの毎日はあっという間に過ぎ、もう秋が来てしまった。この歓楽街には少し物悲しい風が吹き込んでいる。

クラウンの連中は相変わらずで、そういえばいつか、キツネのような目付きをした男と、そのツレの生意気そうなショートの女が仲間に入れてくれ、と店を訪れたことがあった。

しかし、雑誌をめくっていたキッドはその二人をちらりと見ただけで再び目を戻し、

「その態度とキツネみてえな目付きが気にくわねェんだよ」

そう吐き捨てた。なんとも滑稽で痛快な捨て台詞。

その言葉に私は危うくコーヒーを吹き出しそうになりながら必死にこらえていると、隣ではミノルがゴホゴホ咳き込んでいる。

ミノルは正面に座っていた力也からは汚ねえンだよ!と怒鳴りつられ、ボーイの白井からは汚い布巾を投げつけられる羽目になった。

二人からクレームをつけられて、てんやわんやしているミノルを見て、貴志はクスクス笑っている。

誰からも相手にされないキツネの顔はみるみる赤くなり、思い切りキッドの靴にツバを吐くと去ってしまった。

キッドはちらりと見ただけで、立ち上がったのは、力也だった。

背を向けて去ろうとしているキツネの肩をむんずと掴み、力也はここぞとばかり顔面パンチを食らわせた。

完全に気を抜いていたキツネは勢いよく倒れ、連れの女は甲高い悲鳴を上げた。

力也はキツネの胸ぐらを掴むと、何かを叫びながらまた一発お見舞いした。

ミノルは興奮し、陽気に口笛を吹きながらまくし立てると、いよいよ店内は荒れ、煽る者もいれば、逃げる者もいる。

キッドは薄ら笑いを浮かべながら何食わぬ顔で雑誌をめくっていた。

一方的に喧嘩を制したのはもちろん力也の方だった。

しかし、力也は店内を荒らした罰として、閉店まで白井から片付けと掃除をさせられていた。

キッドは、

「何を企んでるか分からねェキツネの目って言ったんだぜ」

と笑って言っていた。