いつものように安酒を飲みながらジャズに耳を傾けていると、時計の針は深夜零時をまわっていた。
今日早々と帰ってしまったのは、例の失恋に泣いたミノルだった。
帰ろうとして私が席を立つと、エミリーが、大学生は大変だね、おやすみ、と声をかけ、貴志と雑談していたキッドが気をつけろよと言ったので、私は頷いて、テリトリーを後にした。
その際キッドの隣で力也がだらしなく仰向けに眠っているのが目に入った。
階段をのぼって扉を開けると、外には中とは違う、しつこく暑い空気が漂っていた。
ネオンに照らされ、華やかなこの歓楽街。
一番輝いていて、私が一番好きな時間帯。
帰り道を歩いていると、ふいに「ハル!」と呼びとめられ、振り返ると貴志がこちらに駆けて来ていた。
ビビッドカラーでちかちかと色づけられたこの不純な街に、彼はちっとも染まらず、別の意味で輝き、美しかった。
彼がなぜ、このような所に入り浸っているのか私は知らなかった。
そもそも、彼以外の遊び人でさえもきっぱりとした理由なんか持っているはずはないのに。