「奥さん?」
私もお辞儀をしたあと、貴志に尋ねた。
「そうだよ」
ここからでは遠くて顔は分からない。でも、素朴で、清楚で、そんな感じ。
「あっ」
彼女のおなかの膨らみに気がついた。私は貴志を見上げると、彼は歯をかくしたままはにかむように笑った。
「今もずっと、ミヤの帰りを待っているんだろう」
私は頷いた。
「ミヤが帰ってきたら、三人で酒でものもう」
「うん、もちろんだよ」
二人で顔を見合わせると、自然と顔がほころんだ。もう大丈夫。心のどこかで、そう強く思えた。
カオリの手をひくと、私はその豪邸をあとにしたのだった。
◇
もう私は振り返らないだろう。死んでしまった多くの仲間たちと、もう戻ることのできないあの時代。
それでも私の心はどこか晴れていた。いつも帰路につく足取りは重いはずなのに、今日は軽かった。