「奥さん?」

私もお辞儀をしたあと、貴志に尋ねた。

「そうだよ」

ここからでは遠くて顔は分からない。でも、素朴で、清楚で、そんな感じ。

「あっ」

彼女のおなかの膨らみに気がついた。私は貴志を見上げると、彼は歯をかくしたままはにかむように笑った。

「今もずっと、ミヤの帰りを待っているんだろう」

私は頷いた。

「ミヤが帰ってきたら、三人で酒でものもう」

「うん、もちろんだよ」

二人で顔を見合わせると、自然と顔がほころんだ。もう大丈夫。心のどこかで、そう強く思えた。

カオリの手をひくと、私はその豪邸をあとにしたのだった。



もう私は振り返らないだろう。死んでしまった多くの仲間たちと、もう戻ることのできないあの時代。

それでも私の心はどこか晴れていた。いつも帰路につく足取りは重いはずなのに、今日は軽かった。