けだるい空気のこもった部屋に、涼しい風が線を描いて通り抜けた。知らず、胸がどくんどくん、と音を漏らす。嬉しい反面、私は何か嫌な予感も感じ取っていた。こうして電話をよこすなど、クラウンの仲間では到底ありえなかったことだったから。
「どうしたの?」
私は尋ねた。すると、貴志は一瞬黙った。案の定だった。私は、受話器をぎゅっと握った。首筋にまとわりついたあぶら汗に混じって、嫌な汗がつう、とつたう。
「今夜、兄貴の通夜があるんだ。最期に、見てやってくれないか」
◇
カオリと繋ぐ手が、汗ばんでいる。
力也の通夜が行われている彼の実家は、とても大きく、その古さは威厳に満ちていた。立派な木造の門をくぐると、豪勢な庭園が目の前に広がった。夏の夕日に照らされて、庭全体が深いコントラストをなしている。
カオリは、無邪気に飛び石の上で跳ねている。彼女がバランスを崩さないように手をとってあげていると、ふいに声がした。
「……ハル?」
そう呼ばれ、私は振り返った。そこには、黒いスーツを身に纏った一人の男性が立っていた。貴志だった。