目を覚ませば、もう朝だった。はっと眠い目を覚ますと、目の前にはまだ眠ったままのミヤの顔がある。私は、心底ほっと息をついた。
ミヤがこの部屋を出たのは、昼過ぎだった。
「また……待っててくれるか」
革のボストンバックを肩にかけ、私に背を向けて靴を履きながらミヤは言った。
「もちろん。この部屋でずっと待つよ」
私は何気ない感じに言った。
「……いいのか?」
広い背中を向けたまま、ミヤの声のトーンが少し下がる。明かりのついていない玄関の影で、彼の背中が暗く見える。玄関は、こんなに奥行きがあったのだろうか。
「……」
狭い玄関に、短い沈黙が流れる。
「ハル、」
「早く行きなよっ」
私は、ミヤのいとおしそうな声をとっさに掻き消した。
ミヤは、ゆっくりとこちらを向いて私の顔を見上げた。その時の彼の顔は、私が初めて見るものだった。なんて苦しそうで、愛に満たされない子どものよう。
私が得意の、心に残らない別れを演じるつもりだったのに、私の心は完全に捕らえられてしまっていた。
私もおんなじ顔をして、ミヤを見下ろしていたんだと思う。
「……引き止めてくれよ」
私は、何も言えなくなっていた。その代わり、ミヤが私を見つめている。これ以上、もう心を乱してほしくないのに。