「……あれはどしゃ降りの日だったッけ、ずぶ濡れのキッドが、ずぶ濡れのお前を拾ってここに来た夜は、びっくりしたなァ……」
そう言って吐き出した力也のタバコの煙の向こうに、あの雨の日の夜がありありと思い起こされるようだった。
新聞片手にコーヒーをすすりながら、優雅に聴くジャズなんてここには存在しない。それよりもずっと暴力的で、彼らのソウルが傷んだ傷に染み込むような、ひりひりとしたジャズ。表の世界に染まることのできないガラクタのような連中と、堕落したこの街の、クズ溜めみたいな場所。けれど、ずっとけなげで、そうして彼らは唯一私を理解し、認めてくれた。
「キッドも、誰よりも一番お前を気にかけて、可愛がっていたと思うぜ。……あいつもなァ……お前と出会って――ここに来てくれて、よかったって――だから……失くしちゃいけないって、この場所も――けど――なんでかなァ……」
そう言う力也の声はだんだんと涙で詰まり、火のついたタバコをぎゅうと握り締め、ソファーに乗せた片足に顔を埋めた。
「力也……」
彼は無造作に、机の上に散らばったクスリを鷲掴み、それを適当に口の中へ放った。
「ねえ……それ、おいしいの?」
私の知らないところから、おかしな好奇心がみるみると湧いてきた。力也は黙ったまんま、ぐしゃぐしゃの黒髪の向こうから、ずっと真っ直ぐな瞳で私をじっと見つめた。