「行こう」

私は彼に埋めていた顔を上げてそう言った。

けれどキッドは無反応で、せかす私が腕を引いてみても、まるで冷えきった石像のようにぴくりともしない。

急に焦燥感に襲われる。やっと現れた彼が、本物の石像になって、カチコチになってしまったら、どうしようって本当に思っている。

「皆、キッドを待ってるんだよ!身も心もズタズタで!」

邪念を振り払うように叫んだ私の声が、静かな歓楽街の中で響く。

キッドは、色のない顔で静かに言った。

「もう……行けねえのさ」

「どうしてだよ!」

金切り声になりながら私は叫ぶ。

「……今日はさ、ただお前の顔見に来ただけなんだ」

そう言うキッドの瞳は、あの時のあの人と同じくらい切なげで。
だから私は余計、不安で心が錯乱していた。