『クラウン』はまさしく歓楽街の中にうもれていた。
特に目立つわけでもなく、階段を降りたところに真っ赤なガラスのついた扉。
その上に『クラウン』の看板がついている。
いつものようにビラや落書きでいっぱいの細いコンクリートの階段を駆け降り、重いドアを開けると、アルコールの効いた店内の空気と、一緒に流れ込む耳をつんざくようなジャズの嵐。
照明を落とした店内で客がひしめきあっている。
ボーイがこちらに愛想よく笑った。
今日は客が多い。
人を掻き分けて奥へ奥へと進むと、開けたスペースがあって、机を囲んでソファーがふたつ、椅子がちらほら。
勝手に仲間が陣取っている私たちの空間。
今夜は三人。
相変わらずけだるそうに話をしたり、タバコをふかしたりしていた。
男が二人、女が一人。
よお、と声をかけたのはミノルで、隣の椅子を勧めてくれた。