「ハルはタバコなんて吸うなよ。汚れるぜ」

「汚れる?
 私は元々、汚れてるよ。
 分かってるでしょ?」

ミヤは煙を吐き出した。
その瞳は遠くを眺めながら。

「いや、お前は汚れてなんてない。少しも」

「どうして?」

「目だよ」

目?と私は疑問を浮かべてミヤを見る。

ミヤは私をじっと見つめ返す。

「その目、曇りひとつない目。
 漆黒の奥に、鮮やかな光を秘めてる」

覗き込むミヤが恥ずかしくなって、ぱっと目をそらした。

「それにハルは俺たちのお姫様だ」

ミヤは思い出したように笑い、短くなったタバコを足で踏み潰した。

「いやに素直で、危なっかしくて、守りたくなっちまうンだよな」

独り言のように呟き、ひとりで納得するミヤ。

「私、そんなにガキ?」

「……お前なんか、まだ成人もしてないだろう?」

そう言ってミヤは私の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。

それからしばらく言葉を交わすこともなく、二人で夜空を黙って見上げていた。

時折出る白い煙が、冬の到来を知らせた。