古ぼけたアパートの前に来た。
さびついたコンクリート製の階段を上がると、一番左側の部屋のドアをキヨミちゃんが開けた。
ぎい、と鈍い音がしてドアが開くと、目の前に開けた窓から差し込む夕日の眩しさに一瞬くらみ、目の前が真っ白になる。
キヨミちゃんが先に部屋へ入ると、その日が影になってようやく私は部屋を見渡せた。
「上がんなよ」
そう言われて狭い玄関でスニーカを脱ぐ。
色とりどりの派手なハイヒールたちの隅にそっと置くと、すこし汚れたそのスニーカーはちょっと仲間はずれにされていたようだった。
畳張りで、そんなに広くない部屋は夕日で橙色に染まっていた。
目の前に部屋には小さいちゃぶ台と箪笥と化粧台とがあって、化粧台の上に化粧道具が散乱している以外は整理整頓されていた。
「ようこそ我が家へ」
そう言ってキヨミちゃんは笑った。