「猫だよ。猫」

「ホントだ。
可愛いね。
野良……かな」

ロープで囲われた芝生の上に寝転んでいた猫は、
彼女が近づいていくと、
その身を起き上がらせ、
道のほうまででてきた。

あまりにも人なつっこく彼女のところにくるので、
僕はそれが野良なのか判断に苦しんだ。

「ねー、ねー、たぶんお腹空いてるんだよ。
お昼に残したパン持ってない?」

そういえば、お昼に買ったパンがまだバッグの中に入ってたな。

それをごそごそととりだし、
ビニールをやぶって、
彼女に渡す。

「えー、わたしがあげるの怖い。
一樹くんがあげて」

わがままなお嬢様だなぁ……
と思うもののそれを顔にも出さず、
彼女の足首に頬をすりすりさせている猫の口元にちぎったパンを持っていく。

しかし、猫はしばらくふんふんとにおいをかいだかと思うと、
ふいっとそっぽを向き、
また彼女のほうにじゃれつく。