「お父さんが好きそうな光景ね」

彼女はしばらく城を見つめていたが、
バッグの中からデジカメを取り出すと、
それで写真を撮りだした。

「うーん、もっとお城全体がはいったほうがいいよね。
ねぇ、どう思う。
これでいいかな」

撮った画像を僕に見せながら同意を求めてくるが、
いかんせん芸術的センスなんてものは、
母親の胎内に置き忘れたきた僕なので、

「これでも十分だと思うけどなぁ」

と簡単に答えるのが精一杯だった。

彼女は納得がいかないらしく、
少してけてけと歩いてはカメラを構えて撮ってみて、
それを確認してはまた移動してといい位置を探していた。

僕はそれを眺めながら、
少し自分も写真を撮るかと思い、
彼女のより性能の劣るデジカメでお城の写真を適当に撮った。

明日の説明会のことで頭がいっぱいだったので、
彼女ほど熱心に観光してない僕は、
特にこだわりもなく、
1枚だけとって終わることにした。