傘もささず雨の中へと足を踏み出した中村。

気づけば俺は、中村の名前を呼んでいた。


「……あ……と、傘。持ってねぇの?」


振り返った中村にそう尋ねると、キョトンとした後コクリと頷いた。

こうしてる間にも、中村の制服には次々と染みが出来ていく。


とりあえず手招きをして、中村に玄関へ戻るよう促した。

素直に戻って来てくれた事にホッと胸を撫で下ろす。

もし拒否されてたら……って俺は何考えてんだ。


わけわかんない自分を誤魔化すように、俺は持っていた傘をズイッと中村に差し出した。


「これ、使って」

「……え……」

「雨、強いし。濡れて帰ったら風邪引いちゃうかもだろ?」


強引な台詞を言いながら、情けない事に傘を持つ手は僅かに震えていた。


なんでこんなに緊張してんだ、俺。

……意識してんの?中村の事……。


「いいよ。翔真くんが濡れちゃうから」


いっぱいいっぱいの俺とは対照的に、中村は冷静だった。


な、中村が喋った!!

またそんな事で嬉しくなってしまう俺。