ダチの一人が弾んだ声で言った。


「バッ……聞こえるって!」


慌てて口を挟むも、時すでに遅し。

ずっと本に独占されていた中村の視線が、しっかりとこちらを捕らえていた。


……ヤ、ヤバイ。


嫌な汗がジワリと額にから滲み出る。

きっと今、俺は真っ青な顔をしているんだろう。

でかい声出したダチをチラリと見ると、口を手で押さえ『テヘッ』と苦笑いしていた。


バッキャロー!

てめぇのせいで、中村の話してる事がバレちまったじゃねぇか!
しかも、本人に。


「大丈夫だって。中村なんて名字いっぱいいんだからよ」


すかさず小声でフォローを入れる大輔。

その言葉を信じ、素知らぬ顔で苦し紛れの雑談を続ける俺達。
みんな目が笑ってない。


視界の隅にいる中村は暫くこちらを見ていたようだが、そのうち読書に戻った。

それを確認した俺は、さっきのダチを一発殴っといた。
もちろんグーで。