中村が見てる。
見えないけど、視線を感じる。

中村は今、どんな瞳で俺を見てる……?


「でも、やっぱ俺……中村が好きだ。めちゃくちゃ好き。だから……」


そう言って顔をあげた俺は、言葉を飲み込んだ。


──中村が、泣いていた。


正確には泣いてない。

目にいっぱい溜まった涙を、口をキュッと閉じて我慢してるように見えた。


なんで泣いてんの?

まさか泣くとは思ってなくて、しかも涙の意味もわからず、うろたえる俺。


「……ずっと」


中村が呟いた。


「謝りたかったの」


まばたきをした瞬間、滴が頬を伝った。

こんな時だってのに、静かに涙を流す中村を綺麗だと思ってしまった。


「先に帰った事も、連絡しなかった事も、試合の応援行けなかった事も……」

「うん……」

「わ……私の家、勉強とかに、厳しくて。私、兄弟の中で一番成績悪くて……」


中村が突然何を言い出したのか最初頭がついていかなかったけど、俺は黙って耳を傾け続けた。

長くなってもいいから、中村の気持ちを、ちゃんと知りたかった。


気が付けば、玄関には俺と中村しかいなくなっていた。


「だから本当は……付き合う事も、反対されてて」

「え……」

「あの日、玄関で翔真くん待ってた日、お兄ちゃんが来たの。ケータイも取り上げられちゃって……。休みの間、ずっと勉強してた。本当はずっとずっと、翔真くんに謝りたかったんだけど……」


涙を拭いながらポツリポツリと話す中村。


なんとなくわかった。

兄貴との会話を俺に聞かれたくなかったのは、たぶん……俺のため。

中村と付き合ってる俺は、きっと中村の家族によく思われてなくて。
いろいろ言われてんだと思う。

中村はそれを庇ったんだ。